大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)2212号 判決 1991年9月24日
控訴人 附帯被控訴人(被告) 関西電力株式会社
被控訴人 附帯控訴人(原告) 速水二郎外三名
主文
1 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴審における訴訟費用のうち、控訴の提起に要したものは控訴人の、附帯控訴の提起に要したものは被控訴人らの各負担とし、その余は二分して、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの各負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決のうち控訴人敗訴の部分を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 本件附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
1 本件控訴を棄却する。
2 原判決を次のとおり変更する。
3 控訴人は、被控訴人ら各自に対し、それぞれ二八七万一〇〇〇円及びうち二〇〇万円に対する昭和四六年一二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 控訴人は、原判決の別紙記載の謝罪文を縦九〇センチメートル、横一八〇センチメートル以上の大きさの紙に墨書して、控訴人の本社、神戸支店及び被控訴人ら四名が勤務する各事業所の掲示板に一週間掲示し、かつ、同文を控訴人の社報に掲載せよ。
5 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
6 右3について仮執行の宣言
第二当事者の主張及び証拠関係
左のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決六枚目裏について、四行目の「職場委員会」を「職場委員」と、八行目の「原告速見」を「被控訴人速水」と、それぞれ改める。
2 原判決一〇枚目表一〇行目と一一行目の間に左のとおり付加する。
「 控訴人は、特殊対策の具体化として、右のように従業員に対する種々の教育によって反共思想、反共意識を植えつけ、その定着を図ったほか、会社の文化・体育活動を、企業意識、反共意識を定着させる手段、特殊対策の一環として重視していた。すなわち、控訴人は、民青同盟がリクリェーションを特定の思想を植えつける手段としているとして、これに対する警戒を説き、『健全グループ』を育成、強化し、反共の橋頭堡を形成するための重要な手段として、レクリーダー制度の活用を考えていた。
また、控訴人は、特殊対策の具体的内容の第二として、組合役員から共産党員やその同調者を排除すべく、組合活動に対して徹底的に介入した。このような控訴人の組合に対する労務政策は既に昭和三五年ころには現れ、実践されていたもので、控訴人は、そのころから、本来会社側が知るはずのない関電労組内部の会議の内容等について、極めて詳細な情報を得るシステムを確立していた。そして、控訴人は、こうした情報に基づいて組合の役員選挙に徹底的に介入し、組合役員から共産党員ないしその同調者を排除するために狂奔した。
控訴人の特殊対策の具体的内容の第三は、共産党員及びその同調者に対する監視、孤立化である。すなわち、控訴人は、これらの者に対して、<1>尾行、スパイ活動、情報交換などを内容とする監視、観察の強化、<2>各種行事、文化・体育活動から排除し、他の従業員との接触を禁じる孤立化、<3>賃金、昇給、昇格などあらゆる労働条件における差別的取扱いと、仕事の取上げなどの嫌がらせ、<4>転向強要などの思想攻撃を行った。その典型的な例が被控訴人らに対する本件人権侵害行為である。」
3 原判決一二枚目裏末行の次に左のとおり付加する。
「 控訴人は、右懇談会及びそのメモが非公開のものである旨主張するが、右懇談会は、六日間にわたり八か所において延べ約八〇人に及ぶ控訴人の職制が参加して開催され、これによって、被控訴人らに対して差別的なレッテルを張り、被控訴人らの思想、信条にかかわる事実や私生活上の秘密に属する事実を伝播させたものであるから、刑法上の名誉毀損罪の公然性の要件も満たしており、その開催自体が被控訴人らに対する不法行為に該当することが明らかである。
控訴人は、右懇談会が従業員に対する観察強化を目的とする事例研修会であって、被控訴人らはそのモデルとして選ばれたに過ぎない旨主張する。しかしながら、右懇談会は、右のような一般的なテーマを目的として開催されたものではなくて、それまでに被控訴人らに対してなされてきた監視、孤立化、排除等の労務管理を総括したうえ、これをさらに一層組織化、系統化して徹底的に行うためのものであった。
さらに、控訴人は、右懇談会のメモである甲第八〇号証の記載内容が事実と相違する旨主張するが、右懇談会における被控訴人らについての報告内容は、極めて具体的であってかつ実際の事実と符合しており、体験していない者でなければ不可能なそのリアルな記述と相まって、右文書が架空の出来事を記載したものでないことは一目瞭然である。控訴人は右文書が水船課長個人の手持ち資料である旨主張するが、右文書は支店長以下五名の管理者の決裁も受けており、その形式からみても、これが控訴人において会社として作成した文書であることは明らかである。
控訴人の内部文書には、右懇談会で報告されたのと同様の人権侵害行為が他でもなされた旨の記載があり、また、被控訴人らのほかにも、控訴人の支店等の所在する全地域において同様の人権侵害行為が行われていることによっても、右懇談会が控訴人の労務政策の一環として行われたこと及び甲第八〇号証の記載内容が事実であることが裏付けられる。」
4 原判決一三枚目表末行の「被告会社は」を「控訴人は、その労務担当者をして」と改める。
5 原判決一三枚目裏一一行目及び一五枚目表六行目の各「被告会社は」を各「控訴人の労務担当者は」と改める。
6 原判決一五枚目表五行目と六行目の間に「なお、慰安旅行は、会社の厚生費から会費が支出され、全職場で行われるもので、業務に準ずる性格を持ち、同被控訴人の職場の場合、主催者は現サ会であって、その会長は現サ課長である。そして、その幹事は、前年の幹事によって指名選出されるが、控訴人の方針によって、同被控訴人は昭和四一年に現サ課へ転入以来現在まで一回も幹事に指名されておらず、右事実は職場において同被控訴人孤立化の象徴ともなっている。」と付加する。
7 原判決一五枚目裏について、二行目の「昭和五四年ころ」を「昭和四五年ころ」と改め、四行目から五行目にかけての「監視しやすいように」の次に「庶務課のある部屋の窓に」と、五行目の「つけたり」の次に「する」とそれぞれ付加する。
8 原判決一七枚目表について、三行目の「中型社員教育」を「中堅社員教育」と、一一行目から一二行目にかけての「一六年以上にわたり」を「二〇年をこえて」と、それぞれ改める。
9 原判決一七枚目裏について、四行目と五行目の間に「なお、同被控訴人が引込線管理票の計算等の業務に代わったころ、控訴人は提案制度に大きな力を注いでおり、同被控訴人が属していた内線係でも村主重太郎、石井富夫らによって種々の提案がなされ、社長賞を受けたものもあった。これらの提案の準備の過程で同被控訴人も度々関与していたが、共同提案者として同被控訴人を入れると受賞できないのが職場の実態となっていたため、同被控訴人の単独提案か同被控訴人を除いて提案せざるを得ないという異常な状態となっていた。」と、六行目の「原告速水は、」の次に「三国営業所において配電課コースを順調に歩み、」と、九行目の「異なる」の次に「現業サービス課コースの」と、それぞれ付加する。
10 原判決一八枚目表について、四行目の末尾に「控訴人が同被控訴人を現業サービス課コースに変更したこと自体が同被控訴人に仕事を与えない意図の現れであるが、控訴人は、これでも不十分と考えて、同被控訴人を右コースの正常な道から外して単純定型業務の担当者としたものである。」と、七行目と八行目の間に「なお、控訴人には資格制度があるが、同被控訴人のこれまでの昇格時期は、各資格とも最長滞留期間を満了したときであった。また、社内の身分序列ともいえる『級区分』において、同被控訴人は、下から三番目の三級に二〇年近く据え置かれており、同期入社の者に比べて著しい差をつけられている。」とそれぞれ付加し、一一行目の「一〇月」を「一二月五日」と改める。
11 原判決二一枚目表三行目と四行目の間に左のとおり付加する。
「 控訴人は、同被控訴人を関電労組の執行部から排除するための対策を立て、これを実行した。すなわち、控訴人は、昭和四〇年に実施された西宮支部執行委員選挙において、主流派の中川匡二を同被控訴人の属する営業課に予め配転し、右中川を立候補させて、同被控訴人を落選させることに成功した。また、控訴人は、翌昭和四一年の選挙においては、同被控訴人の支持者に対する圧力を強め、同被控訴人をして立候補に当たって五名の推薦人の署名を集めることを断念させるまでに至り、同被控訴人はやはり落選した。」
12 原判決二二行目裏五行目の「内海課長」を「内線課長」と改める。
13 原判決二三枚目表一〇行目の「メセをもつていた」を「メモをとっていた」と改める。
14 原判決二八枚目表九行目の「同年」を「昭和四三年」と改める。
15 原判決二九枚目表七行目の「小野田」の次に「神戸支店」と付加する。
16 原判決二九枚目裏について、二行目の冒頭から八行目の末尾までを「控訴人は、被控訴人松本が支部代議員になるのを阻止するため、慣例に反して対立候補者を立てさせて選挙に持ち込み、同被控訴人の支部代議員選出を阻み、また、組合の役員選挙までも活用して、選挙会の協力のもとに同被控訴人の同調者を調べた。」と、一二行目の「いじよう」を「以上」と、それぞれ改める。
17 原判決三二枚目裏について、九行目と一〇行目の間に左のとおり付加し、一〇行目の「(二)」を「(三)」と改める。
「(二) 謝罪文の掲示、掲載
本件不法行為における加害行為の態様、被害の実態、本件発生後の控訴人の対応と職場の状態を直視すると、被控訴人らの名誉を回復するためには、謝罪文の掲示、掲載が必要不可欠である。
すなわち、本件不法行為によって、被控訴人らの人格的評価は広汎かつ深刻に低下し、被控訴人らは正常な人間関係を破壊されて著しい精神的苦痛を受けたが、これを回復する措置は現在までなんらとられておらず、かえって、控訴人は本件と同様の不法行為を将来にわたって続行する方針を持ち続けており、現に被控訴人らに対する不法行為が継続しているから、本件においては、損害賠償のほかに謝罪公告を命じなければならない高度の必要性が存在する。」
18 原判決三九枚目表初行の「社員」を「従業員」と改める。
19 原判決四〇枚目表七行目の「使命観」を「使命感」と改める。
20 原判決四一枚目裏六行目の「義務観」を「義務感」と改める。
21 原判決四二枚目裏二行目と三行目の間に左のとおり付加する。
「(三) 請求原因3(三)(労務管理懇談会の不法行為性)について
役付懇談会は、前記のとおり、当時の神戸支店水船労務課長の発意により、七〇年対策の一環として、同支店管内の限定された役付者を対象として、問題意識の高揚を図るために実施された机上の事例研修にすぎない。
事例研修のテーマは、七〇年対策において必要とされた従業員に対する観察の強化であり、予め指名された報告者の報告の対象として被控訴人らが選定され、被控訴人らについての情報が発表され討論に供されたが、被控訴人らの身上に関する事実は、その殆ど全部が既に公表されているものや身上申告書で容易に判明するものであって、その余のものも噂話程度に過ぎず、殊更被控訴人らの身辺に立ち入って行動観察を行ったというものではなかった。なお、右懇談会での発表と討議は、あくまでも机上演習であり、『何をしたか』という成果を誇るよりも、『何をいかになし得るか』という暗中模索の状況の中での討議であったから、空想的な試みがいくつも提案されており、多くの誇張、虚構が付け加えられていた。
その際の発表者のメモは、水船課長が教育用の研究素材として保存しておきたいとの考えから各発表者に提出を求めたものであり、また、実施報告書も、同課長が当時新任の信高係長に命じて勉強のためにまとめさせたものに過ぎず、いずれも控訴人の業務用文書ではない。右実施報告書には懇談会における誇張した発言等がそのまま記載されたし、右メモの作成に当たっては、懇談会における発言以上に、誇張、脚色、創作等がなされた。
要するに、役付懇談会の開催は控訴人の会社内部における正当な業務であったし、懇談会自体もこれに関する文書も非公開のものであるから、役付懇談会の開催が被控訴人らに対する不法行為を構成することはあり得ない。」
22 原判決四三枚目表について、初行から二行目にかけての「このこと自体は、とるに足りない事実である。」を「右秀川は、被控訴人速水の影響を受け、日常の勤務ぶりが積極的でなく会社の施策に非協力的になっては困るという趣旨の話をしたのであって、同被控訴人との接触を禁止したわけではなく、甲第八〇号証の記載はこれを誇張して表現したものである。」と、六行目の冒頭から一〇行目の末尾までを「昭和四二年一〇月に被控訴人速水の担当業務を変更したことは認めるが、その理由は、控訴人の兵庫営業所において、電圧降下対策の一環として、他の営業所に先駆けて引込線管理業務を導入したが、これは外線業務と密接に関連しているため、これを担当する者としては外線設計の経験者が適任であったところ、その当時兵庫営業所の内線係で右経験を有するのは被控訴人速水のみであり、同被控訴人が適任者と判断されたから、同被控訴人に引込線管理業務を担当させたものである。」と、それぞれ改める。
23 原判決四三枚目裏八行目と九行目の間に「現サ会は職場の親睦団体であり、その幹事の選任は、現サ会内部の問題であって、控訴人とは関係がない。なお、現サ会の幹事はなり手が少なくて、次期幹事を決めるのに苦労するのが実情であり、また、全員が担当するものではない。同被控訴人は、自ら世話好きなタイプではないと供述しており、右幹事として必ずしも適任ではなく、これを希望したこともない。」と付加する。
24 原判決四五枚目裏六行目と七行目の間に「村主或いは石井の提案について準備の過程で同被控訴人が関与していたこと、同被控訴人が共同提案者になると受賞できないとの事実は、いずれも争う。そもそも、誰が提案者になるかは、従業員間の問題であって、控訴人の関知するところではない。」と付加する。
25 原判決四六枚目表について、八行目の「一〇月」を「一二月」と改め、末行の末尾に「被控訴人水谷について警察署から情報を得た旨の甲第八〇号証の記載は、西本庶務課長の創作を細見主任が聞き取ってそのまま記載したものである。」と付加する。
26 原判決四六枚目裏について、三行目の「昭和四四年四月」を「昭和四三年、同四四年ころ」と、五行目の「いじよう」を「以上」と、それぞれ改める。
27 原判決四七枚目表について、八行目の「それは、」の次に「約一週間休んだ同被控訴人に対する」と、一〇行目と一一行目の間に左のとおり、それぞれ付加する。
「 控訴人が細見主任に対して同被控訴人の母の葬儀の際の会葬者についての報告を求めた事実は否認する。細見主任は、慣例に従って右葬儀の手伝いに行ったが、その際のことを脚色して甲第八〇号証に記載したものである。また、細見主任が退勤時の同被控訴人の行動を監視したことは否認する。この点についての右甲号証の記載は、創作に基づくものである。
控訴人の職制が外出時の同被控訴人の同行者に注意を払った事実もなく、右の点についての右甲号証の記載は、誇張して記載されたものである。さらに、右甲号証には、同被控訴人の自宅が赤旗の集配所になっているとの情報により家の中を見た旨の記載があるが、これも、細見主任において、同被控訴人の自宅が赤旗の集配所になっていることを西本庶務課長から聞いて、その点を調査した旨創作したものである。」
28 原判決四七枚目裏初行の前に「控訴人が関電労組の役員選挙に介入して同被控訴人を落選させたことは否認する。昭和四〇年の選挙で同被控訴人が落選したのは、通勤定期券廃止問題の対応に不手際があった支部執行部(同被控訴人は副委員長であった。)に対する不信感が高まっていたこと、執行委員の新旧交代を望む声が職場に出ていた(同被控訴人は、大正生まれであって、長年執行委員を勤めていた。)ことなどによるものであったし、翌年も落選したのは、その前年既に組合員の支持を失っていたからであった。」と付加する。
29 原判決四八枚目表末行の末尾に「同被控訴人と右橋本が同一業務についていた時期はあったが、右両名は各々の業務上の必要性に基づいて担当業務が替わったものであるし、甲第八〇号証が作成された昭和四三年六月ころには、右橋本は同被控訴人と一緒に仕事をしていなかった。」と付加する。
30 原判決四八枚目裏について、二行目の末尾に「中島主任らがロッカーを調査したという甲第八〇号証の記載は同人の創作に過ぎない。なお、同被控訴人のロッカーの置かれていた場所は人の出入りが多く、これを密かに開けることは不可能であるし、同被控訴人の上司は同被控訴人が共産党に関係していることを知っていたから、ロッカーを無断で開けてまで調査する必要性はなかった。なお、原判決認定のようにその時期を昭和四二年秋ころとする証拠はない。昭和四三年にも同被控訴人のロッカーを開けたとの甲第七一号証の記載は、その内容が不自然であって(作成者である尾山のロッカーが地階にあったとされているが、同人のロッカーは三階にあったし、同人が目撃したという時間帯は人の動きが多く、他人のロッカーの無断開扉ができるはずがない。)、到底信用できない。」と付加し、六行目の「仮に労務担当者が入場していたとしても」を「たまたま会場の前を通りかかった控訴人の労務担当の富永雅信ほか一名が入場していた事実はあったが」と、八行目の「昭和四七年」を「昭和四六年」とそれぞれ改め、一一行目の「その時、」の次に「俳句雑誌を購入するために付近の書店に行き、その後バスを待ちながら」と、一二行目と末行の間に「控訴人が昭和四四年一一月二七日に同被控訴人その他の者の帰社後の行動をスパイさせたとの事実は否認する。」とそれぞれ付加する。
31 原判決四九枚目表一一行目の末尾に「同班長は、電話応対の基本に従って相手の名前を尋ねて習慣的にメモをとっただけであるのに、同被控訴人から班員の前で罵声を浴びせられてカッとし、メモがなければいいんだろうと同被控訴人が突きつけたメモを取り上げて燃やしてしまったものである。」と付加する。
32 原判決五一枚目表について、二行目と三行目の間に「明石営業所の庶務課長或いは主任の間で被控訴人松本の監視に関する引継ぎが行われたこと、川人主任が影本や大久保に対して同被控訴人の監視を命じたことは、いずれも否認する。」と、一一行目の末尾に「なお、控訴人が同被控訴人に関して警察署との間で情報交換をした旨の甲第八〇号証の記載は、川人主任らが公刊物から同被控訴人が参加しそうな会合を集めて記載したものであって、虚構である。」と、それぞれ付加する。
33 原判決五一枚目裏一〇行目の「出演者」から同一一行目の末尾までを「脚本の共同執筆者の一人であったが、役どころがなかったことを不服とし(俳優はわずか三人であり、また、謡曲の素養のない同被控訴人には無理であった。)、裏方等として参加することは可能であったのに、協力の労を惜しんだものである。」と改める。
34 原判決五二枚目表について、初行の「親睦会」の前に「右親睦会は、従業員の親睦会であって、控訴人の組織でも公式会合でもない。そして、」と、二行目と三行目の間に「控訴人の指示に基づいて、有志の旅行会が解散して、その後別個の旅行会がつくられたことは否認する。同被控訴人は、甲第八〇号証が作成された後の昭和四三年、同四四年の旅行にも参加しており、同号証の記載は虚構である。なお、右旅行は、営業課サービス班員を中心とした有志によるもので、控訴人の関与しないものであり、また、旅行会というほど組織されたものでもない。」と、それぞれ付加する。
35 原判決五二枚目裏末行の冒頭から五三枚目表六行目の末尾までを「右主張事実は否認する。なお、甲第八〇号証の記載に依拠した被控訴人らの主張が事実に反するものであることが明らかとなり、当審において主張が変更されたことは、右甲号証の記載が虚構であることを端的に示すものである。」と改める。
36 原判決五四枚目表初行の「あつたかの」の次に「ような」と付加する。
37 原判決五五枚目表五行目の末尾に「少なくとも、被控訴人らにおいて孤立化させられたとする事実については、被控訴人らはそのときに加害者及び損害を知っていたというべきである。」と付加する。
38 原判決五七枚目表について、初行の「本件記録」の次に「(原審及び当審)」と付加し、五行目の「四ないし六」の次に「、同第一二二ないし第一二八号証、同第一二九号証の一、二、同第一三〇ないし第一三五号証、同第一三六号証の一ないし三、同第一三九号証の一、二、同第一四〇号証並びに同第一四三号証」と付加する。
39 原判決五八枚目表八行目と九行目の間に左のとおり付加する。
「3 甲第八〇号証は、写しが証拠として提出された。
当事者間において、写しをもって原本に代えることに異議がなく、かつ、原本の存在及びその成立について争いがないときは、必ずしも原本(又は正本、認証ある謄本)の提出を要しないとされている。しかしながら、控訴人が甲第八〇号証について写しをもって原本に代えることに同意したことはない。しかも、被控訴人らは、甲第八〇号証の原本を提出することが可能であるにもかかわらず、右原本を提出しないのである。
よって、甲第八〇号証について原本によらない証拠の申出は不適法である。
そもそも、甲第八〇号証は、次に述べるとおり、控訴人の人事、労務に関する内部文書であり、公開されることを予定していないものであるから、民訴法三一二条各号の文書に該当しない。このような文書が法廷に顕出されることは、適法な手続によってその所持者が任意に提出する場合を除き、本来あり得ない。右のような性質をもった文書を、しかも、その写しで証拠調べをすることは、到底許されない。
4 書証とは、文書の思想内容が証拠となるものであるとされている。この意味からいうと、甲第八〇号証の記載内容は、その各作成者或いは会議を主催した水船労務課長の思想とは遠く隔たっている。すなわち、右文書の記載内容には、虚構、誇張があり、現実の実践とかけ離れた事実が多いからである。
しかも、その内容は、七〇年安保改定期を控えて、企業防衛の必要性という見地から、企業にとっての危険人物を想定し、机上演習としてのケーススタディを行った懇談会についてのものであって、発表者が後にまとめた個人メモが大部分を占めていることや、モデルとなった被控訴人らの氏名が記載されていることからも、労務管理上厳重に秘密にすべきものであった。右の意味では、甲第八〇号証は、控訴人にとって民訴法第二八一条一項三号の職業の秘密に属する文書であり、かつ、その各作成者にとっても同法二八〇条の個人的秘密及び同法二八一条一項三号の職業の秘密に当たる文書である。
甲第八〇号証は、控訴人や各作成者の意思に反して証拠として提出されたものであり、前記のとおり、何人かによって窃取され、被控訴人らにおいて贓物であることの認識をもって入手したと推断されるものである。
被控訴人らが右のような違法な手段で甲第八〇号証を入手し、これが民訴法二八〇条、二八一条一項三号に該当する文書である以上、甲第八〇号証は証拠としての適格性を欠くものである。」
40 原判決五八枚目表の末尾に左のとおり付加する。
「四 甲第八五号証、同第八六号証(一枚目)、同第八七号証及び同第一〇九号証について
甲第八五号証は、度重なる手書きによる転写を経たうえ、最後の段階で、宗田弘が控訴人の社用便箋を用いて控訴人の文書であるかのような体裁を整えたものである。しかも、転写の過程でその内容に要約、変更、追加がなされている。そして、転写の元となったとされる山尾所長作成のノートの存在は明らかでなく、また、転写の正確性も立証されていない。
右のように、度重なる手書きによる転写を経た文書の写しのみが存在し、転写の正確性を認めるべき信用できる資料が存在しない場合、右転写の元となった文書の作成者の思想内容を訴訟資料とすることは許されない。
よって、甲第八五号証は、その記載内容を山尾所長の作成によるものとすることはできず、証拠として無価値であるというべきである。
甲第八六号証(一枚目)、同第八七号証及び同第九〇号証が控訴人作成の文書から転写された旨の被控訴人らの主張を認めることはできず、それどころか、右各甲号証は、甲第一号証に収録されている文書の一部についてその原本らしく見せるために、本訴が提起された後に甲第一号証から逆に転写されたものである。したがって、転写の正確性を論ずるまでもなく、甲第八六号証(一枚目)、同第八七号証及び同第九〇号証は証拠価値がない。
甲第一〇九号証についても、その作成経過に関する被控訴人速水の供述は不自然な点が多くて信用し難く、証拠価値を有しないというべきである。
以上のとおり、右各甲号証は、いずれも手書きによって転写されたものであるのに、転写の元となった控訴人の文書の存在及び転写の正確性が立証されていない。それどころか、甲第八六号証、同第八七号証(一枚目)及び同第九〇号証については、前述の目的で本訴が提起された後に甲第一号証から転写されたものであり、甲第八五号証についてもその疑いが存する。
仮に、甲第八五号証が山尾所長作成のノートから転写されたものであるとしても、右ノートが同人によって職務上作成されたものであることの立証はないから、これを控訴人の文書ということはできない。
右各事実に加えて、被控訴人らは、甲第八五号証等に関する主張、立証において極めて不誠実な態度に終始しており、これは証拠の提出に関する信義則に反するものである。
五 控訴人の右各主張に対する被控訴人らの反論
1 控訴人と被控訴人らとの間において、旧甲第一号証を証拠としない旨の訴訟上の合意が成立したとの控訴人の主張、甲第八〇号証の提出が訴訟上の信義則に反するとの控訴人の主張は、いずれも争う。控訴人側においても自ら甲第八〇号証を積極的に活用して証人尋問を行っており、訴訟の経過に照らしても、これを証拠として提出することに問題は存しない。
甲第八〇号証が控訴人の職制によって作成されたことは明白であり、しかも、右文書は控訴人の業務の一環として公的に作成されたものと認められる。そして、これには、被控訴人らに対する違法、不当な人権侵害行為の数々が記載されており、控訴人がこのような性格の文書を秘匿しておくことが違法であり、控訴人にとって法的保護の対象となり得る余地のないものである。逆に、被控訴人らは、自分達の人格権を侵害する違法文書の存在とその内容を公開させ、控訴人の違法行為を中止させる正当な権利を有しているから、甲第八〇号証の証拠能力が認められることが正義にかなうものである。
2 甲第八〇号証は、控訴人の主張によっても、何者かによって窃取されたというにとどまり、被控訴人らがその窃取に加担した事実はなく、かつ、前述した文書の性格、内容(被控訴人らに対する名誉、人格の侵害性、違法性)からしても、その証拠能力を否定すべき合理的根拠は存在しない。
3 甲第八〇号証は、控訴人を被告とする別の訴訟事件を担当していた川西譲弁護士のもとへ原本の写しが郵送されてきたものであって、被控訴人らはその原本を所持していない。
当事者が原本を紛失したりして所持していないがその写しを所持している場合、相手方が原本の存在及びその成立を争わないときは、原本の代わりにその写しを提出することは許される。甲第八〇号証の原本が存在したこと及びその成立については、控訴人も認めており、また、被控訴人らの提出した写しが変造されたものであるとの主張もない。したがって、被控訴人らにおいて原本の写しである甲第八〇号証を証拠として提出したことには、なんら違法な点はない。
控訴人は、甲第八〇号証の内容が事実と相違する旨、及び、これが水船課長個人の手持ち資料に過ぎない旨主張するが、そうでないことは前述のとおりである。
4 甲第八五号証が手書きによる転写を経て若干の加筆がなされたことは事実であるが、右加筆の内容は証拠上明らかであって、右加筆がなされたことによって甲第八五号証の証拠価値が失われるものではない。
甲第八六号証及び甲第八七号証について、その成立過程の主張や証拠としての提出に際して若干の混乱があったことは事実であるが、右各甲号証のもととなった控訴人作成の文書が本訴提起前の昭和四四年五月の時点で存在していたことが認められ、これが本訴提起後に転写されたとの控訴人の主張は失当である。」
理由
一 当裁判所も、被控訴人らの控訴人に対する本訴請求は、原判決認容の限度で理由があり、その余は失当であると思料する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決五九枚目表について、九行目の「甲第二六号証」から一一行目の末尾までを「甲第二六号証等について」と改め、一二行目の「甲第八〇号証」及び末行の「検甲第一号証」の次にそれぞれ「について」と付加する。
2 原判決五九枚目裏七行目、八行目、一〇行目、一一行目及び末行、六〇枚目表初行、三行目及び四行目をいずれも全部削除し、六〇枚目表五行目の「被告会社による行為の違法性」を「控訴人の行為の違法性」と、同七行目及び同八行目の全部を「五 控訴人の抗弁(消滅時効)について」とそれぞれ改める。
3 原判決六一枚目表について、五行目の冒頭から六行目の「各本人尋問の結果」までを「成立に争いがない甲第七三号証の二五及び乙第三〇号証、弁論の全趣旨によって成立を認めることができる乙第四二号証、証人岡村不二夫及び同宗田弘(当審)の各証言、被控訴人速水(原審第一、二回及び当審)、同三木谷(原審第一回及び当審)、同水谷(原審及び当審)及び同松本(原審及び当審)の各本人尋問の結果」と改め、一〇行目の「速水」を「三木谷」と改める。
4 原判決六一枚目裏について、九行目から一〇行目にかけての「支部」を「西宮支部」と、一一行目の「本部」を「大阪北地区本部」と、それぞれ改める。
5 原判決六二枚目表九行目の「にそれぞれ当選した」を「をそれぞれ勤めた」と、同末行から六二枚目裏初行にかけての「各当選の事実」を「であったこと」と、それぞれ改める。
6 原判決六二枚目裏について、三行目の冒頭から七行目の末尾までを「昭和一七年四月に控訴人の前身である関西配電株式会社に入社し、昭和一九年海軍通信学校入隊のため一旦退職し、昭和二二年四月に復職して以後同会社(控訴人設立後は控訴人)に勤務し、神戸支店湊川配電局葺合変電所、三宮営業店、湊町営業店、板宿営業店、夙川営業店、西宮営業所に順次勤務した後、昭和四五年一〇月大阪北支店に配置転換されて、今里営業所、扇町営業所今里営業店に勤務して、昭和五五年一月に定年退職し、同年二月特別職員に採用されて引き続き今里営業店に勤務したうえ、昭和六〇年一月末日をもって特別職員を解職された。」と、一一行目及び一二行目の各「四〇」を各「三九」と、それぞれ改める。
7 原判決六三枚目表について、四行目の「昭和三三年ないし四〇年」を「昭和三四年ないし三九年」と、五行目の「四〇年」を「三九年」とそれぞれ改め、七行目の「原告三木谷」の次に「(前掲各証拠のほか、当審における同被控訴人の供述によって成立が認められる甲第二四七号証)」と付加する。
8 原判決六三枚目裏三行目の冒頭から同七行目の末尾までを「昭和一七年一月に控訴人の前身である山陽配電株式会社に入社し、同中国配電株式会社を経て同年一〇月同関西配電株式会社勤務となり、昭和一八年徴用令により休職してその後兵役に服務し、昭和二四年一〇月復職して以後同会社(控訴人設立後は控訴人)に勤務し、神戸支店、尼崎営業所を経て、昭和四〇年三月明石営業所営業課に配置転換となり、昭和五四年一一月に一旦定年退職し、同年一二月特別職員に採用されて引き続き明石営業所営業課に勤務したうえ、昭和五九年一一月に特別職員を解職された。」と改める。
9 原判決六四枚目表について、五行目の「一ないし四九、」の次に「同第七六号証、」と、八行目の「第一回」の前に「原審」と、九行目の「甲第六九号証」の次に「並びに前掲証人宗田(当審)及び証人築山隆一(第一、二回)の各証言」と、それぞれ付加する。
10 原判決六五枚目表について、九行目の「前掲書証」を「前記2の冒頭掲記の各書証」と改め、一〇行目から一一行目にかけての「同第七六号証、」を削除し、一二行目の「第一〇八号証」の次に「、弁論の全趣旨によって成立が認められる甲第一二三号証、同第一三〇号証及び同第一四〇号証(なお、これらの証拠能力を争う控訴人の主張を採用することができないことは後記のとおりである。)並びに前掲証人宗田(当審)、同築山(第一、二回)、証人水船毎昭(原審及び当審)及び同信高誠司の各証言(各一部)、被控訴人速水本人尋問の結果(原審第一、二回及び当審)」と付加し、末行の「証人築山隆一の証言(第一、二回)」を「右証人築山(第一、二回)、同水船(原審及び当審)及び同信高の各供述」と改める。
11 原判決六五枚目裏一三行目の「労務部」の前に「本店」と付加する。
12 原判決六六枚目裏初行の「思想、信条による差別待遇を禁止し」を「国民の法の下の平等を規定して、信条等による差別待遇を禁止し」と改める。
13 原判決六七枚目表について、七行目の「甲第二六号証」から九行目の末尾までを「甲第二六号証等について」と、一一行目の「右甲号各証」を「甲第二六号証、同第二七号証の一、二、同第二八号証の一ないし三、同第二九ないし第三一号証、同第三二号証の一、二及び四ないし六、同第一二二ないし第一二八号証、同第一二九号証の一、二、同第一三〇ないし第一三五号証、同第一三六号証の一ないし三、同第一三九号証の一、二、同第一四〇号証並びに同第一四三号証」と、それぞれ改める。
14 原判決六八枚目表三行目から四行目にかけての「いうにとどまり、それ自体何人かが窃取したのかさえなお不明であつて」を「いうにとどまるから、右供述によって右各文書が窃取されたものと認定すること自体困難であるし、仮に窃取されたものだとしても、何人が窃取したかは不明であって」と改める。
15 原判決六八枚目裏一二行目の末尾に「また、甲第八〇号証の提出が時機に遅れたもの、或いは、訴訟経過の上でその提出が信義則に反するものと認めることはできない。」と付加する。
16 原判決六九枚目表について、四行目の「成立に争いのない」の前に「甲第八〇号証の原本が存在したこと及びこれが控訴人の職制の作成にかかるものであることは、控訴人の主張から明らかであり(なお、控訴人の主張中には、右文書が民訴法上の文書に該当しない旨の部分があるが、右主張を採用することはできない。)、一方、被控訴人側において甲第八〇号証の原本を所持していることを認めるに足りる証拠はない。なお、」と、六行目の「質問した際、」の次に「同議員において」と、一一行目と一二行目の間に左のとおり、それぞれ付加する。
「また、控訴人は、被控訴人らにおいて甲第八〇号証の原本を提出することが可能であるのに原本を提出せずに写しを証拠として提出し、控訴人は写しをもって原本に代えることに同意しないから、右写しによる証拠調べは不適法であると主張する。
民事訴訟法は書証の申出につき文書の原本、正本または認証ある謄本をもってなすことを要す旨規定し(同法三一一条、三二二条)、文書の写しによる証拠調べは原則として許されないが、当事者間に文書の原本の存在について争いがなく写しによる証拠調べについて異議のない場合には、文書の写しによる証拠調べは許されるし、また、文書の原本は存在するが当事者がこれを所持しない等の理由により原本を提出できないときは、『写し』自体を原本として書証の申出をすることもでき、この場合他の資料により原本の存在及びその成立並びに写しの成立が認められれば、その形式的証拠力に欠けることはないと解すべきところ、甲第八〇号証の原本自体の存在したこと及びこれが控訴人の職制により作成されたことは控訴人の主張自体から明らかであり、当審における被控訴人速水及び同松本の各本人尋問の結果に弁論の全趣旨によればその写しの成立も認められ(甲第八〇号証が控訴人の職制が作成した文書の写しであることは控訴人の主張自体からも窺える。)、また、甲第八〇号証の文書の原本(労務管理懇談会実施報告)は被控訴人らにおいて所持していないことも認められるから、その写し自体を書証として提出することが違法であるとはいえない。よって、被控訴人らにおいて、甲第八〇号証について、その写しを証拠として提出したことは適法なものというべきである。」
17 原判決六九枚目裏について、七行目の「甲第一二〇号証」の次に「(原本の存在についても争いがない。)」と、九行目の「宗田弘」の次に「(原審)」とそれぞれ付加し、一〇行目の「第三回」を「原審第三回、当審」と改める。
18 原判決七〇枚目表について、初行の冒頭から五行目の末尾までを「、右山尾の承諾を得て、同人の記載していたメモ書きの要旨を手書きで写し取り、これを右沢谷から被控訴人速水が譲り受け、同被控訴人において自ら手書きで写しを作成したうえ湿式コピーで複写し他に配布したところ、そのうちの一通を右宗田が入手し、同人がさらに手書きで写しを作成してこれをコピー(湿式)したものであること、」と、八行目の「以下」を「以上」と、それぞれ改める。
19 原判決七〇枚目裏について、九行目の末尾に「そして、右各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、右各甲号証のもとになった文書の存在及びこれが控訴人作成にかかる文書であることを認めることができる。控訴人は、右各甲号証が甲第一号証に収録されているものから転写されたものである旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。」と付加し、一一行目の「前記各証拠」を「前記一の2、3の各冒頭掲記の各証拠」と改め、同行の「真正に成立したものと」の次に「(甲第八五号証については、原本の存在も)」と付加する。
20 原判決七一枚目表について、初行の「弁論の全趣旨」から五行目の末尾までを「証人蒲田建三の証言によって成立を認めることができる甲第二六号証及び同第二七号証の一、二、証人岡田忠雄の証言によって成立を認めることができる甲第二九号証、右証人蒲田及び前掲証人信高の各証言によって成立を認めることができる甲第三〇号証、前掲証人水船の証言(原審)によって成立を認めることができる甲第三二号証の七、八、弁論の全趣旨によって成立を認めることができる甲第二号証(原本の存在も弁論の全趣旨によって認めることができる。)、同第二八号証の二、三、同第三一号証、同第三二号証の六、同第五一号証、同第六八号証、同第七七、第七八号証、同第九四号証、同第一〇四号証、同第一二五号証、乙第五一号証、」と、七行目の「甲第三四」を「甲第三三」と、それぞれ改める。
21 原判決七一枚目裏について、初行の「和田楢蔵」の次に「、同井上正実(一部)」と、三行目の「同森田實」の次に「、同中川文一郎、同此川勝海、前掲証人築山(第一、二回)、同信高、同水船(原審及び当審)」とそれぞれ付加し、一一行目から一二行目にかけての「無防備そのものであるうえ」を「全く無防備のものも少なくないうえ」と改める。
22 原判決七三枚目裏について、四行目から五行目にかけての「執拗に転向を強要され」を「共産党に入党した経緯、動機、現在の考え方、心境等についての反省文を書くように執拗に要求され」と改め、五行目の「奥田寛」の前に「民青同盟に加入していた」と付加し、七行目から八行目にかけての「職制より反省文を書くよう強要され」を「労音を脱退するよう求められ、また、自己の労働組合員としての活動の反省のほか、親交のある者、労音加入者の氏名、組合役員選挙で誰に投票したか等を書面に記載して提出するよう職制から要求され」と、九行目の「職制の要求により反省文を書かされたほか、」を「職制から、労働組合活動についての考え方が間違っており、今後は会社に協力するよう求められたうえ、右の点についての反省文を書かされたほか、会社の厚生行事であるスキーへの参加を申し込んで拒否されたことで上司を厳しく追及した後の」とそれぞれ改める。
23 原判決七四枚目表について、初行の「いずれも」から三行目の末尾までを「上司から転向を強く迫られたり、他の従業員と区別して特別に言動を監視され、これを労務担当の上司に報告されたり、或いは、会社の文化・体育行事から排除される等の扱いを受けた。」と、六行目の「前掲各証拠」を「前掲甲第八〇号証」とそれぞれ改め、同行の「証人水船毎昭」の次に「(原審及び当審)」と付加し、八行目の「ならびに」から九行目の「甲第八〇号証」までを削除する。
24 原判決七四枚目裏について、六行目の「徹底させようと考え」の次に「(なお、被控訴人らが対象とされた理由について、前掲証人水船((原審))は、被控訴人らが不平、不満分子であったからであると供述するが、右供述は抽象的なものにとどまり、右供述によっても被控訴人らについて具体的にどのような事実があったから懇談会の報告の対象とされたかは不明であり((被控訴人らについて、その職務の遂行上、与えられた職務の懈怠等があったこと或いは職務の遂行のうえで不平、不満が多かったことを認めるに足りる証拠はない。))、むしろ、先に認定した控訴人の労務対策の方針、甲第八〇号証の記載内容等から考えると、被控訴人らが共産党員ないしその同調者であるとみられていたことが、その理由であると考えざるを得ない。)」と付加し、一二行目の「西宮、尼崎両営業所合同」を「西宮、尼崎各営業所(午前と午後に分けて行われた。)」と、末行の「兵庫、明石両営業所合同」を「兵庫、明石各営業所(午前と午後に分けて行われた。)」とそれぞれ改める。
25 原判決七五枚目表について、初行の「日程で」から三行目の末尾までを「日程で、神戸支店管内の役付者(各会場について約一〇名ずつ)を集めて労務管理懇談会を開催し、その席において、自ら前記のような考えを述べて参加者を督励するとともに、各会場とも右秀川らのうち約二名に右発表をさせたうえ、参加者に討議させた。」と改める。
26 原判決七六枚目表二行目の「計算整理業」を「計算整理業務」と改める。
27 原判決七八枚目裏について、二行目の「低下する」の次に「、」を付加し、七行目の「「」を削除する。
28 原判決七九枚目裏九行目の「同党員であることが」を「同党員であるといわれている旨」と改める。
29 原判決八一枚目表九行目の「にぎつていない」の次に「」」を付加する。
30 原判決八一枚目裏六行目の冒頭に左のとおり付加する。
「 控訴人は、右懇談会は、七〇年対策の一環として、役付者を対象として問題意識の高揚を図るために実施された机上の事例研修にすぎず、その席での発表と討議は、あくまでも机上演習であり、『何をしたか』という成果を誇るよりも、『何をいかになし得るか』という暗中模索の状況の中での討議であったから、空想的な試みがいくつも提案されており、多くの誇張、虚構が付け加えられていた旨、さらに、その際の発表者のメモは、水船課長が教育用の研究素材とするために各発表者に提出を求めたものであり、また、実施報告書も、同課長が信高係長に命じて勉強のためにまとめさせたものに過ぎず、いずれも控訴人の業務用文書ではなく、右実施報告書及び右メモの記載内容には誇張が多い旨主張する。そして、」
31 原判決八一枚目裏について、六行目の「証人水船」の次に「(原審及び当審)」と付加し、一一行目の「あるけれども、」を「ある。しかしながら、」と改め、一二行目の「文面に照らし、」の次に「かつ、その内容が、被控訴人らにおいて、差別的取扱いを受けたとして供述する各事実と多くの部分において符合することから考えて、右懇談会をもって机上演習にすぎないとみることはできず、また、右書面の内容について、」と付加する。
32 原判決八二枚目表について、初行の末尾に「また、右文書の作成者ら或いはその作成に関与した同人らの上司らの供述中には、右文書はメモ的なものにすぎないから、事実と異なることをも記載した旨の部分があるが、後記のとおり、右文書は控訴人の業務上作成されたものであって、その作成者らは職務としてその作成を命じられたものと認められるから、右文書作成者等の右弁解は採用し難い。さらに、本件労務懇談会が控訴人の業務として実施されたことは明らかであり、かつ、右甲第八〇号証は、作成者の労務係長から、労務課長、支店次長(二名)及び支店長の各閲覧に供されたうえ、いわゆるマル秘文書として神戸支店で保管されていたことが認められるから、右文書をもって控訴人主張のように水船課長の個人的目的のために作成されたものとみることはできず、右文書は控訴人の業務上の文書として作成されたものと認められ、右認定に反する前掲証人水船(原審及び当審)その他控訴人側証人の各供述部分は到底採用することができない。」と、九行目の「甲第八〇号証、」の次に「被控訴人速水本人尋問の結果(原審第一回)によって成立を認めることができる甲第五九号証の一、二及び同第六〇号証、」と、一〇行目の「部分を除く)、」の次に「同村主重太郎の証言及びこれによって成立が認められる甲第一五二号証、」と、同行の「本人尋問の結果」の次に「(原審第一回及び当審)」と、それぞれ付加する。
33 原判決八二枚目表一二行目の冒頭から八三枚目表八行目の末尾までを左のとおり改める。
「 控訴人は、昭和四一年八月、被控訴人速水を三国営業所から兵庫営業所に転入させるに当たり、同被控訴人が、三国営業所に勤務当時会社に非協力的であり、従業員を煽動したりするおそれがある人物である旨を職制に伝達し(そのころ、従業員の間に、大物の組合活動家が転入してくる旨の噂が流れた。)、同被控訴人と同一業務を担当する若い従業員が同被控訴人の影響を受けることを警戒し、右若年従業員らに対し、共産党ないし共産主義者の非情さとこれにかかわることの不利益を説明したうえ、できるだけ同被控訴人との接触を回避するよう働きかけた(なお、前掲甲第八〇号証には、同被控訴人の兵庫営業所転入に当たって、同被控訴人を孤立させる必要性を全係員に説明して予め地固めを行った旨の記載部分があるが、右記載部分どおりの事実があったとは認め難く、右部分は誇張して記載されたものとみるのが相当である。)。
そして、兵庫営業所において、控訴人の職制は、同被控訴人の動静を特別に監視し、昭和四二年一〇月には、同被控訴人を外勤のある業務から内勤業務に変更して、勤務時間内の監視を容易にし、また、同被控訴人を安全推進委員に選任しないようにした。さらに、同被控訴人の上司は、同被控訴人が通勤経路を同じくする従業員と通勤時に接触をはかることを警戒し、同被控訴人と接触した者があった旨の報告を入手した場合は、その者に対して同被控訴人と行動を共にすることのないよう説得した。
右のような控訴人の同被控訴人に対する取扱いの結果、多くの従業員が同被控訴人との接触、交際を避け、同被控訴人を疎外或いは敬遠するようになり、例えば、同被控訴人が関与した業務の改善に関する提案でも、同被控訴人の名前を出すと採用されないとして、同被控訴人の名前を出さないで提案したことがあった。」
34 原判決八三枚目表について、九行目の「坪田斉」を「坪田齊」と改め、一〇行目の「忠雄」の次に「、同田中利勝及び同清水敬造」と、同行の「各証言」の次に「並びに乙第七三、第七四号証の各記載」とそれぞれ付加し、末行の「証人細見敏夫(後記信用しない部分」を「証人細見敏夫、同西本俊治及び同北岡浩の各証言(いずれも後記信用しない部分」と改める。
35 原判決八三枚目裏について、初行の「本人尋問の結果」の次に「(原審及び当審)」と付加し、三行目の冒頭から一二行目の末尾までを左のとおり改める。
「 控訴人は、被控訴人水谷について特別にその行動を監視し、その職制において、同被控訴人の休暇届けに虚偽の申請がないかどうか、休暇をとる日が特定の曜日に集中していないかどうかを調べ、昭和四三年ころ、同被控訴人が欠勤した際、上司が口実をもうけて同被控訴人方を訪れたこともあった。また、同被控訴人の上司は、同被控訴人の帰宅時に、その行動を探るべく尾行したことがあり、同被控訴人方が赤旗の集配所になっているとの情報に基づいて、それを確認しようとして同被控訴人方の屋内を覗いたこともあった。
さらに、控訴人の職制は、同被控訴人の住居地を管轄する灘警察署に共産党員としての同被控訴人に関する情報の提供を求め、その結果、同被控訴人が居住細胞ではなくて経営細胞の関電細胞に属しており、活動状況は低調であって下から二番目のランクである等の情報を得たほか、同被控訴人の勤務場所を管轄する西宮警察署にも右同様の情報の提供を求め、活発な活動がないので注目していない旨の回答を得た。
一方、控訴人の職制は、他の従業員のいるところで同被控訴人の思想を非難するなどして、同被控訴人の信用失墜を図ったり、他の従業員が同被控訴人と接触しないよう働きかけ、同被控訴人を従業員の中で孤立させるよう努めた。」
36 原判決八三枚目裏末行の「同西本俊治」の次に「及び同中谷守」と、同行の「各証言」の次に「並びに乙第七八号証の記載」と、それぞれ付加する。
37 原判決八四枚目表五行目の「本人尋問の結果」の次に「(原審第一回及び当審)」と、同六行目の「認められる」の次に「甲第五二号証及び」とそれぞれ付加し、六行目から七行目にかけての「とこれにより成立の認められる甲第七一号証」を削除し、同九行目の冒頭から八四枚目裏九行目の末尾までを左のとおり改める。
「 控訴人尼崎営業所の職制は、被控訴人三木谷が民青同盟員らしいとして特別にその行動を監視することとし、同被控訴人と職場が同じ者に指示を与えて同被控訴人の言動を監視させ、同被控訴人に電話がかかってきた場合は、かけてきた者を確認させたうえ、これを上司に報告させ(右監視を命じられた者がそのために同被控訴人の机の上のメモを調べたこともあった。)、また、同被控訴人が民青同盟或いは共産党関係の文書等を所持しているのに気付いた場合は、上司に報告するよう命じた。さらに、控訴人の職制は、同被控訴人を尾行するなどして、同被控訴人の退社後の行動も監視した。
そして、同被控訴人の上司の庶務課長、主任などは、昭和四二年ころ、同被控訴人を監視していた者からの報告に基づいて、指紋を残さないよう手袋を用意したうえ、同被控訴人のロッカーを無断で開け、同被控訴人の上着のポケットに入っていた民青手帳を取り出して、その内容を写真に撮影した。
また、同被控訴人の上司は、同被控訴人と共に飲酒したり喫茶店に行った従業員に対して、同被控訴人と接触しないよう注意を与えたり、同被控訴人が幹事をしていた写真部の部員に対して退部を働きかけ、昭和四三年二月ころ同部を自然解散するに至らせるなどして、同被控訴人が職場の中で他の従業員から孤立するように意図的に働きかけた。」
38 原判決八四枚目裏一〇行目の「西脇次郎」の次に「、同西川保男及び同上田薫」と、同行の「各証言」の次に「並びに乙第七五号証及び同第七七号証の各記載」と、それぞれ付加する。
39 原判決八五枚目表について、初行の「甲第八〇号証、」の次に「成立に争いがない甲第二四一号証及び同第二四二号証、」と、三行目の「本人尋問の結果」の次に「(原審及び当審)」と、それぞれ付加する。
40 原判決八五枚目表五行目の冒頭から八五枚目裏七行目の末尾までを左のとおり改める。
「 控訴人の職制は、昭和四二年ころ、明石営業所営業課に勤務していた被控訴人松本について、他の従業員一ないし二名に対し、同被控訴人が極左分子である旨を説明して、同被控訴人の監視を命じ、また、一般の他の従業員にも右同様の説明をして、同被控訴人が控訴人の経営方針に反する者であることを周知させ(例えば、明石営業所の営業課長は、昭和四四年七月ころの同被控訴人が欠勤した日に、他の従業員に対して、『極左分子が巷間に暗躍している。以後同被控訴人にかかってくる電話については、相手方及びその内容をチェックしてほしい。同被控訴人は共産党員であるから、皆で力を合わせて監視してほしい。』といった内容の話をした。)、他の従業員が同被控訴人と接触しないよう働きかけ、退社後同被控訴人と行動を共にした者に対しては注意を与えた。
控訴人の労務担当者は、同被控訴人の住居地を管轄する加古川警察署に同被控訴人の写真を持参して情報交換を依頼し、その結果、同被控訴人が、<1>昭和四二年九月一〇日に加古川市内で開催された共産党の東播地区委員会の活動者会議(これは共産党内部の会議であって、関係者を除いて開催場所等を知る機会がないものである。)に、<2>同年一一月五日に姫路市内で開催された『安保破棄・諸要求貫徹兵庫県実行委員会』主催の集会に、<3>昭和四三年一月二八日に西脇市民会館で開催された共産党東播地区の『赤旗びらき』に、<4>同年五月三〇日に明石デパートで開催された共産党主催の講演会に、それぞれ出席したことの情報を得た(なお、右<4>の共産党主催講演会には、控訴人の職制も出席していた。)ほか、明石営業所を管轄する警察署とも連携を保って、同被控訴人に関する情報を入手しようとした。
さらに、控訴人の職制は、昭和四三年四月ころ以降約五年間、同被控訴人については、安全週番を担当させなかった。
以上のような控訴人の働きかけの結果、昭和四五年ころには、他の従業員が同被控訴人との交際、接触を避けるようになった。」
41 原判決八五枚目裏について、八行目の「同澤井正太郎」の次に「、同大久保美津男及び同竹中瑞和」と、九行目の「証言」の次に「並びに乙第七九号証及び同第八〇号証の各記載」と、それぞれ付加する。
42 原判決八六枚目裏四行目の「職制」の次に「が行ったもの」と付加し、同一一行目の「確認する」を「確認して上司に報告させる」と改め、同一二行目の「各行為、」の次に「被控訴人らが犯罪行為をしたわけでもなく、その具体的な危険があったわけでもないのに、警察署との間で情報の交換をして、業務に関係のない私生活にわたる事実についての情報を入手した行為、」と付加し、同末行から八七枚目表初行にかけての「原告らの孤立化政策として、従業員に働きかけて」を削除し、八七枚目表二行目の「職場」から同四行目の「もちこむなどして」までを「種々の方法を用いて」と改める。
43 原判決八七枚目表一一行目と一二行目の間に左のとおり付加する。
「 もっとも、被控訴人らに対してなされた前記認定にかかる各行為は、一部を除いて、転向強要等の思想、信条の自由に対する直接の侵害行為ではないし、個々の行為をみると問題視するほどのものではないものも含まれている。しかしながら、控訴人は、先に認定した労務対策の方針に基づいて、職制らをして被控訴人らの思想、信条を理由として右のような行為に及ばせたものであって、被控訴人らとしては控訴人の会社を退職するか自己の思想、信条を変えない限り右のような取扱いを受け続けることになる。したがって、右各行為は、控訴人の労務対策の方針に基づいてなされた一連のものであって、間接的に転向を強要するものであるから、被控訴人らの思想、信条の自由を侵害する行為に当たるというべきである。
なお、控訴人の主張中には、被控訴人らに対する観察を強化したに過ぎない旨の主張部分があるが、使用者において、労務管理、人事管理の必要上或いは企業秩序を維持するために、被用者の動静を観察し必要な情報を収集することが正当な行為であることはいうまでもないものの、被用者は、使用者に対して全人格をもって奉仕する義務を負うわけではなく、使用者は、被用者に対して、その個人的生活、家庭生活、プライバシーを尊重しなければならず、また、その思想、信条の自由を侵害してはならないのであるから、使用者の被用者に対する観察或いは情報収集については、その程度、方法に自ずから限界があるといわざるを得ない。本件において控訴人が被控訴人らに対する観察、情報の収集としてなした行為は、勤務時間の内外、職場の内外を問わず、被控訴人らの行動、交友関係、特に、共産党或いは民青同盟との関係の有無を確かめ、或いは、これに関する資料を収集しようとしたものであって、また、被控訴人ら本人にとどまらず、その家族についても右の点についての情報収集の対象としたものであって(前述した甲第八〇号証の記載のうち、被控訴人らの家族に関する部分については、その記載どおり被控訴人らの上司が調査して前記労務管理懇談会で報告したものと認められる。)、使用者の従業員に対する監督権の行使として許される限界をこえ、被控訴人らの人権、プライバシーを侵害するものがあったといわざるを得ない。」
44 原判決八七枚目表一二行目の「他方、」の次に「前掲証人秀川、同細見、同中島及び同片山の各証言並びに」と付加する。
45 原判決八八枚目裏について、三行目の「断ち」を「断たれ」と、四行目の「主張するけれども」から九行目の末尾までを左のとおり、それぞれ改める。
「 主張し、前掲甲第八〇号証の記載及び同被控訴人の供述(原審第一回及び当審)中には右主張に符合する部分がある。しかしながら、その当時右事実について同被控訴人自身苦情を述べることもなかったことが認められるし、前掲証人秀川及び同伊藤の各証言に照らして、同被控訴人の右供述部分をたやすく採用することはできない。なお、前掲甲第八〇号証のこの点に関する記載部分は、同被控訴人の上司において、労務管理懇談会の席上(或いは、その後発表結果を文章化するに当たって)、同被控訴人に対する監視、観察を十分していることを強調するために誇張して発表或いは記載したものと解するのが相当である。」
46 原判決八八枚目裏一〇行目の「原告速水」から八九枚目表初行の末尾までを左のとおり改める。
「 被控訴人らは、昭和四三年六月、被控訴人速水のロッカー内の私物を調査されて、鞄の中に入れていた資料を調べられた旨主張する。しかしながら、この点についての同被控訴人の供述(原審第一回及び当審)は、自宅に帰って鞄を開けた際に封筒に張っていたセロテープがはがれていたことがあるというに過ぎず、右供述では被控訴人ら主張にかかる右事実を認めるに十分とはいえず、ほかに右事実を認めるに足りる証拠はない。」
47 原判決八九枚目表について、六行目の「しかし」から一二行目の末尾までを左のとおり改める。
「 しかしながら、同被控訴人の右供述によっても、同被控訴人自身監視されていたと意識していたわけではなく、甲第八〇号証の記載を読んだ後に、右吉川が監視していたのではないかと考えるに至ったものと認められ、前掲証人伊藤、同秀川及び同坪田の各証言に照らしても、同被控訴人の右供述部分は採用し難い。また、甲第八〇号証の右記載部分は、前同様労務管理懇談会での発表のために誇張的に記載したものとみるべきである。」
48 原判決八九枚目表末行の「原告速水本人尋問の結果」から八九枚目裏七行目の末尾までを左のとおり改める。
「 被控訴人らは、控訴人は大多数の従業員に対しては何らかの形で社内教育を受けさせているが、被控訴人速水に対してはこれらを一切受けさせず排除していると主張する。しかしながら、同被控訴人は青年者教育を受けている(同被控訴人自身認めるところ((原審第一回供述))である。)し、同被控訴人がその後社内教育を受けていないことは認められるものの、前掲証人伊藤及び同坪田の各証言によると、控訴人の社内教育は必要に応じて一定の者に受講させていることが認められ、控訴人が同被控訴人を社内教育から特に排除したことを認めるに足りる証拠はない。」
49 原判決八九枚目裏について、九行目の「営業所」の次に「庶務」と付加し、一一行目の全部を「証言に照らして、右主張に添う同被控訴人の供述部分(原審第一回、当審)をたやすく採用することはできず、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。」と改める。
50 原判決八九枚目裏一二行目の「原告速水」から九〇枚目表四行目の末尾までを左のとおり改める。
「 被控訴人速水の供述中(原審第一回、当審)には、同被控訴人は、将棋を好み、かなりの実力を有するのに、神戸支店内の大会に参加させてもらえないとの供述部分がある。しかしながら、前掲証人坪田の証言によると、同支店内の大会の出場者は同好者が自主的に選考するところ、兵庫営業所内には同被控訴人よりも上位の実力を有する者がいるために、同被控訴人が選考されなかったものであって(同被控訴人の供述も、右事実を否定していない。)、控訴人の関知するものではないことが認められる。」
51 原判決九〇枚目表五行目の「配転と転向要求」を「配転と転向要求等」と改め、同行の「本人尋問結果」の次に「(原審第一回及び当審)」と、同八行目の「一〇月」の次に「(原審。当審で一二月と訂正)」と、同九行目の「要求された」の次に「(この点については甲第二二三号証にもその旨の記載がある。)」とそれぞれ付加し、同行の「しかし」から九〇枚目裏二行目の末尾までを左のとおり改める。
「 しかしながら、前掲証人伊藤及び同坪田の各供述によると、被控訴人速水が三国営業所から兵庫営業所に配転になったのは、同被控訴人が三国営業所において組合役員選挙に落選して落ち込んでいたので、同被控訴人に心機一転をはからせるためであったというのであり、右供述を事実に反するものとは断じ難く、右配転が同被控訴人の組合活動を嫌悪してなされたものと認めるには不十分であり、また、同被控訴人の右供述及び右甲第二二三号証の記載によっても、現サ課長が同被控訴人に転向を要求したと認定するには不十分である。
また、被控訴人らの主張中には同被控訴人が資格制度、『級区分』のうえで不利益な取扱いを受けている旨の部分があるが、これらは勤務成績その他諸般の事情を総合して決められるものであって、控訴人が同被控訴人を右の点について不当に不利益に取り扱ったと認めるに足りる証拠はない。」
52 原判決九〇枚目裏四行目の冒頭から九一枚目表四行目の末尾までを削除し、九一枚目表五行目の「(2)」を「(1)」と、同一二行目の「(3)」を「(2)」と、同裏九行目の「(4)」を「(3)」と、九二枚目表五行目の「(5)」を「(4)」とそれぞれ改める。
53 原判決九一枚目表について、五行目の「原告水谷」から一一行目の末尾までを左のとおり改める。
「 被控訴人らは、控訴人が、被控訴人水谷を席を離れることが殆どない業務に従事させ、しかも、その席を上司の前に配置して同被控訴人を監視し易いようにした旨主張し、同被控訴人の供述(原審及び当審)及び前掲甲第八〇号証中には、右主張に符合するかのような部分がある。しかしながら、同被控訴人の右供述及び甲第八〇号証の記載によっても、右各事実を認めるには十分とはいい難いし、前掲証人池山、同細見の各証言、右証人池山の証言によって成立を認めることができる乙第二八号証によると、同被控訴人の席はその前任者と同じであって、業務上の便宜を考慮して定めたものと認められ、被控訴人らの右主張を認めることはできない。」
54 原判決九一枚目裏について、六行目の「営業所長」から八行目の末尾までを「右慣例に従って同被控訴人の上司を含む職場の者が手伝いに行ったものと認められ、受付事務などを手伝えば当日の出席者などを知ることができるから、厳粛な葬儀の場の出来事を右のように甲第八〇号証に記載したことは極めて不謹慎ではあるが、その内容についてはこれを誇張して記載したものとみるべきである。」と、九行目の「原告水谷の本人尋問結果によると、」を「被控訴人水谷(原審及び当審)及び前掲証人北岡は、同被控訴人が」とそれぞれ改め、一一行目の「同池山」の次に「及び同中谷」と付加する。
55 原判決九二枚目表について、五行目の「原告水谷」から末行の末尾までを左のとおり改める。
「 被控訴人水谷(原審及び当審)及び前掲証人北岡の各供述によると、昭和四三年ころ、その当時同被控訴人の上司であった池山営業課長が、同被控訴人に対し、同被控訴人に対する昇給査定が低いのは同被控訴人のマルクス主義思想によるものであること、マルクス主義は一〇〇年前の古い思想であって現代に通用しないことなどを述べ、また、他の従業員に対し、同被控訴人の思想を転向させると公言した等の事実があったというのであるが、その際の状況は先に認定した程度であったと認められ、前掲証人池山の証言に照らして、同被控訴人及び右北岡の右各供述をそのまま採用することはできない。」
56 原判決九二枚目表末行の次に行を改めて左のとおり付加する。
「(5) 組合役員選挙への介入
被控訴人らは、控訴人において、関電労組の役員選挙に介入し、被控訴人水谷が組合役員に選出されることを妨げた旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない(前述した昭和四〇年ころ以降の関電労組の状況から考えると、控訴人の働きかけがなくても、左派の活動家として著名であったとみられる同被控訴人の選出を阻む動きがあってもなんら不自然ではない。)。」
57 原判決九二枚目裏について、六行目の「甲第八〇号証、」の次に「証人兼田實の供述、」と、同行の「本人尋問の結果」の次に「(原審第一回及び当審)」とそれぞれ付加し、九行目から一〇行目にかけての「会社認定を取り消されているので、車両の運転が不可能であり」を「控訴人内部で定めた車両運転についての社内認定が取り消され、業務上車両の運転が出来なくなったためであり」と改める。
58 原判決九三枚目表六行目の末尾に「なお、京都上営業所における昭和四六年五月の机の配置替えについても、同被控訴人(原審第一回及び当審)及び前掲証人兼田は、年配順に配置するのが常識或いは慣例であるのに、これに従わないで、同被控訴人の机を班長の前に配置した旨供述するが、右供述のように年配順に配置するのが常識或いは慣例であるとは認め難い。また、同月、同被控訴人にかかってきた電話を最初に受けた検査班長西脇次郎が、その際に作成したメモを、同被控訴人の追及を受けて、同被控訴人に見せることなくその場で焼却した事実のあったことが認められるものの、電話を受けた者が相手を確かめることは、控訴人の会社においては一般的に励行されている事実であるし、それをメモに取ることも不相当とはいえず、これを焼却したことは異例ではあるが、同被控訴人の厳しい追及に感情的になって焼却したとの右西脇の供述も理解できないわけではなく、かつ、右メモに電話をかけてきた者の氏名等以外の事実が記載されるとは考えられないから、右西脇の行為をもって控訴人が同被控訴人を特別に監視していたとみることはできない。」と付加する。
59 原判決九三枚目表七行目の「講演会」の次に「等における監視」と、同行の「本人尋問結果」の次に「(原審第一回及び当審)」とそれぞれ付加し、同一〇行目の「証人岡田」から九三枚目裏初行の末尾までを「弁論の全趣旨によって成立を認めることができる乙第一〇六号証及び弁論の全趣旨により、尼崎営業所で労務関係の業務を担当していた富永雅信ほか一名が右講演会に出席していたことが認められるものの、右証拠によると右講演会は一般の人に公開されたものであったことが認められ、これに右富永ほか一名が出席していたからといって、直ちに同被控訴人を監視する目的で出席したものとはいえず、同被控訴人の右供述は右乙第一〇六号証の記載に照らしてたやすく採用することができない。」と改める。
60 原判決九三枚目裏初行と二行目の間に左のとおり付加する。
「 また、被控訴人らは、昭和四六年二月一七日の夕刻、京都上営業所の外線係主任内田昭が被控訴人三木谷の行動を監視していた旨主張し、同被控訴人(原審第一回、当審)及び前掲証人兼田の各供述中には、その旨の供述部分がある。しかしながら、同被控訴人の右供述によると、右内田は、同被控訴人と目が合った後も付近の道路上を行ったり来たりしていたというのであるから、秘密裏に同被控訴人を監視していた者の行動としてはいささか不自然であるし、右内田の証言に照らし、かつ、同被控訴人の上司でも労務担当者でもなく(その経験を有するとも認められない)右内田に控訴人が監視を命じたというのも理解し難く、同被控訴人の右供述をそのまま採用することはできず、また、右兼田の供述も監視の事実を認めるには不十分である。
さらに、被控訴人らの主張によると、控訴人において、昭和四四年一一月二七日、同被控訴人が共産党の集会に参加するか否かを確認するために、他の従業員をして同被控訴人の帰社後の行動をスパイさせたというのであるが、前掲甲第五二号証の記載並びに同被控訴人(原審第一回及び当審)及び前掲証人兼田の各供述は、右事実を認めるに十分とはいえず、ほかに右事実を認めるに足りる証拠はない。」
61 原判決九三枚目裏について、二行目の「証人北田」の前に「被控訴人らは、被控訴人三木谷が各種文体行事から排除されたと主張するが、同被控訴人の供述(原審第一回及び当審)によっても、同被控訴人が尼崎営業所勤務当時に文体行事から意図的に排除されたと認めるには不十分であるし、京都上営業所に転勤した後については、」と、六行目の「ボーリング大会」の次に「に同被控訴人は参加しなかったが、右ボーリング大会」とそれぞれ付加し、九行目の「認められる。」を「認められ、控訴人が意図的に同被控訴人を排除したものとまでいえず、同被控訴人(原審第一回及び当審)及び前掲証人兼田の各供述のうちこれに反する部分はたやすく採用できない。」と改め、同行と一〇行目の間に左のとおり付加する。
「(4) 思想攻撃
被控訴人らは、被控訴人三木谷が、京都上営業所に配転になった後の昭和四三年一〇月、直接の上司である北田検査班長から、暗に思想を理由とする差別扱いをする旨の恫喝を受けたと主張し、前掲甲第五二号証の記載及び同被控訴人の供述(原審第一回)中にはこれに符合するかのような部分がある。しかしながら、前掲甲第五二号証、同被控訴人の右供述及び右北田の証言を総合すると、右話し合いは、同被控訴人の直接の上司である右北田において、京都に転勤して間のなかった同被控訴人に対して、酒席をもうけて、転勤の心境、仕事のことその他諸々のことについて話し合いをしたものであって、右北田の酔いがかなりまわった後に、労働組合活動のことや共産党のことが話題に出たものと認められるが、同人が計画的に酔いにまぎれて控訴人の意を体して同被控訴人に対する働きかけをしたとまでは認め難く、また、右北田において、同被控訴人の思想、信条を変えるように求めたり、恫喝に当たるような発言をしたと認定するに足りる証拠はない。」
62 原判決九三枚目裏一一行目の冒頭から九四枚目裏三行目の末尾までを削除し、九四枚目裏四行目の「(2)」を「(1)」と改める。
63 原判決九四枚目裏について、七行目の「証人杉江の証言」の次に「及びこれによって成立を認めることができる乙第二四号証」と、末行の「認められ、」の次に「明石営業所においてその段階で右メッシュ作業を取り入れたことの是非はともかく、同被控訴人を孤立させる等の目的で同被控訴人にこれを担当させたとまでは認められないから、」と、それぞれ付加する。
64 原判決九五枚目表について、初行の冒頭から一一行目の末尾までを「(2) 組合役員選挙への介入 被控訴人らは、控訴人において、被控訴人松本が支部代議員になるのを阻止するため対立候補者を立てさせ、また、選挙会の協力のもとに同被控訴人の同調者を調べた旨主張する。しかしながら、同被控訴人の対立候補者の出たことが控訴人の働きかけによるものと認めるに足りる証拠はなく(被控訴人水谷の場合と同様に、関電労組内部の勢力の移り変わりを考えると、控訴人の働きかけがなくても、尼崎営業所勤務当時左派の活動家として著名であったとみられる被控訴人松本の選出を阻む動きがあっても不自然ではない。)、また、控訴人が選挙会の協力を得て同被控訴人の同調者を調査したことを認めるに足りる証拠もない。」と改め、末行の冒頭に「控訴人は、」と付加する。
65 原判決九五枚目裏について、初行の「請求であるところ、」の次に「被控訴人らは各行為時にその損害及び加害者を知っており(とくに孤立化について)、そうでないとしても、」と、七行目の「規定しているが、」の次に「原審における」と、一〇行目から一一行目にかけての「認められ」の次に「(被控訴人らにおいて、個々の被害行為を知ったとしても、それが前記認定のような控訴人の労務方針に基づいた一連のものであることを知ったことにはならない。)」とそれぞれ付加し、一一行目の「顕著な事実」を「記録上明らかな事実」と改める。
66 原判決九六枚目裏について、七行目の「原告ら請求」を「被控訴人らの本訴請求」と改め、八行目の「相当でない」の次に「(本件不法行為は使用者である控訴人が被用者である被控訴人らに対して加えたものであって、控訴人の会社内部の問題であり、被控訴人らが本訴を提起していることは控訴人の会社内部で多くの人が知悉しているものと推認できるから、被控訴人らの慰藉料請求が一部認容されれば、敢えて謝罪文の公告をしなくても、被控訴人らの名誉は回復されるとみるべきである。)」と付加し、一〇行目の「訴状送達の翌日」を「本件不法行為の後」と、一二行目の「本訴請求のうち」を「本訴請求を」とそれぞれ改める。
二 以上により、本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 大久保敏雄 妹尾圭策 中野信也)